慢性腎不全と猫のごはん

慢性腎不全になった猫の飼い主が一番頭を悩ませるのはキャットフードだと思います。ここでは慢性腎不全の猫のごはんがどうあるべきかについて私の考えを書いてみたいと思います。

腎臓は何をする臓器か

人間でも同じですが、猫にも背中側に腎臓が2つあります。よくソラマメに似ていると言われる臓器です。

腎臓の機能を一言でいうと、ろ過装置です。血液は体中を巡って全身の細胞に栄養を届けるのと同時に不要物を受け取ります。腎臓は流れてきた血液をろ過して猫に老廃物や余分なものをゴミとして取り除き、尿として排泄します。尿が黄色くて臭いのはこのゴミが入っているからです。

また、それと同時に腎臓は血圧の調整も行っています。簡単に言うと血圧が低いと血の生成を推進し、血圧が高いと尿をたくさん出すということになります。

腎臓が正しく働かないとゴミの除去も血圧のコントロールもできません。そうなると高血圧になったり貧血になりやすくなりますし、血液のミネラルバランスが崩れ、様々な病気を誘発します。ゴミを排出できなくなるので末期には尿毒症と呼ばれる中毒状態にもなります。

慢性腎不全とは何か

腎臓で尿を作る機能の最小単位をネフロンと言います。猫には2つの腎臓でだいたい40万個のネフロンが存在しています。ネフロンは一度壊れてしまうと壊れたままです。ネフロンが徐々に壊れていき、慢性的に腎機能が正常に働かなくなる状態を慢性腎不全と言います。

ネフロンが壊れると残ったネフロンが代わりに働きます。当然壊れている数が多いほど残りのネフロンへの負荷がかかります。負荷がかかりすぎるとネフロンは壊れます。つまり、ネフロンが壊れ始めると加速度的に残りのネフロンが壊れていきます。

ネフロンが壊れる理由は病気や遺伝など様々ですが、ろ過装置ですから基本的には長く使っていれば壊れていきます。酷使してもやはり壊れていきます。

機能が低下するとゴミを排出することが難しくなり、尿の色や臭いが薄くなります。質を量で補うために多飲多尿となります。腎臓は本来必要な水分の再吸収も行いますが、腎機能が低下すると水分の吸収もしづらくなるので脱水にもなりやすくなります。こうなると尿量を増やし、水分を補給するために輸液を行ったりします。

最終的に腎臓がほとんど機能しなくなると尿が作れなくなります。そうなると尿が出ずゴミの排出が不可能になり、尿毒症となります。こうなると後は人工的に毒素を除去する透析か腎移植しかありませんが、費用や設備などのこともあり猫の医療ではあまり一般的ではありません。

慢性腎不全の診断基準

腎不全は一般に血漿クレアチニン(Cre)濃度、尿素窒素(BUN)及び尿比重や尿たんぱく検査によって診断されます。正常な腎機能があればクレアチニンは尿として排出されますが、クレアチニン濃度が1.6を超えると腎機能がおかしい可能性が出てきます。尿素窒素も同様です。正常な状態ではCre:BUNの比率は1:10になるとされています。

進行度 クレアチニン
(mg/dl)
腎機能残存率
ステージ1 < 1.6 100-33%
ステージ2 1.6-2.8 33-25%
ステージ3 2.9-5.0 25-10%
ステージ4 > 5.0 < 10%

このクレアチニンによる判断というのはIRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)が分類しているものです。しかし、クレアチニン濃度は腎臓に障害が無くても検査時点の筋肉量・運動量(クレアチニンは筋肉を動かす際の老廃物なので)やフードの内容物に影響される数値と言われています。尿素窒素も同様で、摂取するたんぱく質量や脱水状態でも変わってきます。よって、尿検査やリンなどのその他の数値、病状なども加味して診断は下されます。

また、クレアチニンによる判断では異常があった時点で既に腎機能の70%以上が失われた状態となっています。これでは遅すぎるということで、より早期で外部の影響を受けない方法として、IRISでは2016年からはSDMA(対称性ジメチルアルギニン)による検査を指標として取り入れています。腎機能が平均40%喪失した時点でSDMAの上昇がみられるそうです。

参考:
IRIS CKD Staging in Cats
猫の血漿クレアチニン値と食餌中クレアチニン含量(日本獣医師会雑誌Vol. 48 (1995))
ハート動物病院 慢性腎不全の管理
アイデックスラボラトリーズ株式会社 腎臓の新しい検査SDMAの概要

腎臓ケア療法食について

猫にとって腎不全はポピュラーな死因であるため、腎臓ケア療法食は多くのメーカーが販売しています。病院でも大抵はヒルズのk/dとかロイヤルカナンへの切り替えを勧められると思います。

腎不全というのは要するに腎臓の機能が十分に働かず、少ない残存ネフロンに負荷がかかっている状態です。ということは、いかにネフロンへの負担を下げるかということを考える必要があります。それはつまり血液中のゴミを少なくするということです。これについて少し考えてみたいと思います。

たんぱく質について

猫にとってたんぱく質は欠かせない栄養素です。たんぱく質は体を構成する要素であり、エネルギー源でもあります。猫に限らずですが必須アミノ酸というものがあって、これらは体内で生成できないため食物から摂取する必要があります。人間の必須アミノ酸は9種類で、猫はそれにプラスしてアルギニンとタウリンが必須になります。

たんぱく質は腸でアミノ酸に分解され猫に吸収されます。吸収されたアミノ酸は肝臓で体を構成するたんぱく質に組み替えられます。血中にグルコースが足りないと糖新生でアミノ酸からグルコースも作ります。それでも余ったアミノ酸は分解されます。

このアミノ酸を分解するとき、最終的にアンモニアが発生します。アンモニアは有毒であるため肝臓で尿素になります。尿素は腎臓で濾されて尿として排泄されます。

一般に腎臓病に低たんぱく食が良いとする理由は結局これになります。たんぱく質を摂取しすぎるとゴミが増えるからです。実際にはアンモニアは他の経路でも発生しますが、生きていれば発生を避けられないので、調整可能と言う意味で食事から取るたんぱく質量というのがクローズアップされています。

アミノ酸スコアについて

ここで考えなければいけないのは必須アミノ酸についてです。必須アミノ酸は体を構成するたんぱく質を作るアミノ酸のうち、自力で作れないものを指します。つまり、肝臓がたんぱく質を作るときの部品です。部品が足りないと完成品が作れませんので、ゴミになります。

この必須アミノ酸をバランスよく含んでいる食材をアミノ酸スコアというもので表します。猫用アミノ酸スコアとうたっているものは見たことがないです。人間と猫でアミノ酸のバランスがどれだけ違うのか分かりませんが、とりあえず人間用のアミノ酸スコアを参考にするしかありません。

アミノ酸スコアは最高値が100です。100の食材は肉や魚、卵です。それ以外の食材はアミノ酸スコアが低い、つまりゴミになりやすいということができます。雑食であれば1つの食材に足りないアミノ酸を他の食材で補えますが、そうでなければアミノ酸スコアの高い食事というのが理想的つまり、無駄がない食事といえます。言わば肉を作る成分ですから肉が一番いいのは当たり前な気はしますね。

生きるのに必要なたんぱく質量

では1日にどれだけアミノ酸が必要なのでしょうか。AAFCO基準では4kcal/gの密度で健康な成猫に必要なたんぱく質は26%を下限としています。参考までに、使ってる部位にも拠りますが、肉そのものっぽいビーフジャーキーは大体3kcal/gでたんぱく質が20%ちょいです。ジウィピークのエアドライベニソンが4.69kcak/gで粗たんぱく質が35%以上と書かれています。すごいなジウィピーク。

余談ですが粗たんぱくの「粗」と言うのは「大体」という意味です。なぜそんな曖昧なのかと言えば、たんぱく質の量を正確に測る方法が存在していないからです。

猫が1日に必要とするカロリーは計算式などありますが、年齢、運動量、肥満具合、去勢の有無などによって変わってきます。仮に必要なエネルギーが200kcalだとすると、4kcal/gのフードだとたんぱく質は13gが最低でも必要になります。つまり普通にしててもこれだけたんぱく質がないと生体維持ができず、痩せていくということになります。

論拠となる論文や研究が見つけられなかったのですが、ネットで仕入れた知識だとたんぱく質は30%~45%が良いとされています。これを超えると多すぎるということだと思います。どれくらいの比率が良いのかは結局個体差になってしまうと思うのですが、少なくとも26%以上でないといけません。

猫はたんぱく質を主なエネルギー源として利用していますが、そもそも炭水化物も脂肪もエネルギーにすることは可能ですから、あとは必要最小のたんぱく質でなるべくごみを出さないことが大切になると考えられます。

こう考えると、同じたんぱく質量であってもいかにバランスの良いアミノ酸スコアの高いたんぱく質を摂取するかが課題になります。バランスが悪いと体を構成するたんぱく質に再構成されず、そのままゴミになる率が高くなるからです。これはもちろん人間の腎不全でも同じです。

ミネラルについて

しかし、腎臓ケアではたんぱく質と同時についてくるのがリン、カルシウムの話です。腎機能が低下したら調整がうまくいかずミネラルバランスが取れなくなるというのが理由です。高リン血症や低カリウム血症など死につながる病状になります。

ナトリウム、カリウム、マグネシウムは敢えてサプリなど摂取していなければ問題はないと思いますが、ミネラルウォーターなどにも思いのほか含有量が多いものもありますので、やめたほうが良いと思います。

問題はリンです。リンは肉類に多く含まれています。アミノ酸スコアが高いとリンも高いと言っても過言ではないです。腎機能が低下すると余分なリンの排泄がうまくいきませんから血中のリン濃度が上がります。

リンと言うのはカルシウムとペアになって骨や歯を作る重要な要素です。その比率は1対1が良いとされています。リンはカルシウムと結合してしまうので、リンの濃度が上がるとカルシウムがどんどん使われてしまいます。こうなると低カルシウム血症を引き起こします。また、腎不全になるとビタミンDが欠乏し、カルシウムが吸収されづらくなり、やはり低カルシウム血症の危険が高まります。

参考までに腎臓ケア療法食のミネラル数値の比較です。

アニモンダ(ドライ)
総合栄養食 腎臓ケア療法食
グレインフリー
(100gあたり)
ニーレン
(100gあたり)
リン 0.8 0.45
カルシウム 0.9 0.65
カリウム 記載なし 0.5
マグネシウム 0.08 0.006
ナトリウム 記載なし 0.35
ヒルズ(ドライ)
総合栄養食 腎臓ケア療法食
インドアシニア k/d
リン 0.4以上 0.3%以上
カルシウム 0.45以上 0.5以上
カリウム 記載なし 記載なし
マグネシウム 0.09以下 0.085%以下
ナトリウム 0.5以下 0.28%以上

リンの少ない肉とは何か

肉を摂取したいがリンは摂取したくない。禅問答のような感じですが、課題はこれに尽きる気がします。肉はリンが多いと一言で言ってしまうと誤解があります。肉は部位によってリンの量がかなり違います。

特にリンが多い肉類は、卵の黄身、肝臓、魚(特に骨と内臓)、ハムなどの加工肉です。逆に言うとこれら以外の肉はそれほどリンは多くありません。例えば牛ひき肉とコーンミールのリン含有量はあまり変わりません。

また、モモやムネなど筋肉をよく使う部位はリンの値も高めになります。バラやロースなどは逆にリン含有量が減ります。考えてみれば当たり前で、リンの機能は骨や筋肉を作ることだからです。赤身肉ほどリンが多いと言えるかもしれません。特にばら肉は脂身が多いのでそもそもたんぱく質の量も減ります。大腸のリン含有量は更に低いです。

また、動物の種類でもリンの含有量が違います。
参考:五訂増補日本食品標準成分表(本表) 肉類

種類 状態 リン
いのしし 肉、脂身つき、生 300
うさぎ 肉、赤肉、生 170
うま 肉、赤肉、生 170
しか 肉、赤肉、生 200
やぎ 肉、赤肉、生 170
マトン ロース 脂身つき、生 120
マトン もも 脂身つき、生 140
ラム ロース 脂身つき、生 100
ラム もも 脂身つき、生 140
うし(輸入牛)かた 赤肉、生 180
うし(輸入牛)かたロース 脂身つき、生 150
うし(輸入牛)サーロイン 脂身つき、生 150
うし(輸入牛)ばら 脂身つき、生 130
うし(輸入牛)もも 脂身つき、生 180
うし(輸入牛)もも 赤肉、生 200
うし 舌 140
うし 肝臓 330
うし 腎臓 200
うし 心臓 170
うし 小腸 140
うし 大腸 77

この表だと日本で一般的に食されない動物の扱いが雑なのですが、参考にはなります。羊が圧倒的に低いですね。載せてないやつですと、七面鳥、アヒル、ウズラも数値が低いです。ちなみに食パンが83、米が94です。なお、玄米は290ですのでご注意ください。要するにミネラル豊富と言われる食品はリンも高くなる傾向にあります。

肉の多いフードメーカーの言い分

肉比率の高いフードであるオリジンを作っているチャンピョンペットフーズは、1998年に書かれた以下の資料を論拠として高たんぱく食は腎臓に負担をかけないと言っています。ジウィピークも基本的には同じことを言っていますが少し弱気で、腎不全末期は低たんぱく食の方がいい場合もあると言っています。

MYTHS OF HIGH PROTEIN

この資料は犬について述べられたものですが、猫についてどの程度当てはまるか分かりません。そもそも私にはこれをどこまで信じればいいのかわからないし、1998年というのも古すぎると思います。しかし日本でも、2004年の本村伸子「ペットの老後を健やかに!」でも同様のことが述べられています。

なお、リンの値を抑えてありますが、アニモンダのニーレンやヒルズのk/dでも缶詰の第一原料は肉です。(ドライフードは炭水化物が第一原料です)うちはアレルギーの問題がありますが、やはり、肉を摂取しながらリンは抑えるというのが理想形かなとは思います。

余談:慢性腎不全の治療薬

2017年4月より東レがラプロスという猫慢性腎臓病治療薬を販売するそうです。ステージ2、3の猫が対象になります。うちの猫もぜひ試してみたいと思います。

猫慢性腎臓病治療薬 ラプロス®の製造販売承認取得について

慢性腎不全の猫の食事まとめ

色々述べてきましたが、猫にとって動物性タンパク質は必要です。そして血液検査などでリンやカルシウム値異常があった場合には即座に対策を講じる必要があるのは間違いありません。

そう考えると、肉については以下のようにまとめられるかと思います。

  1. 血液中のミネラルバランスが安定していれば肉を適量与える。
  2. 正常範囲内でリン値が上振れするようならリン値が低めな肉を与える。
  3. 異常値になりそうと思われる場合は肉にリン吸着剤を混ぜて与える。
  4. それでも高止まりしてしまうのであれば完全な低リン食にする。

あくまで私個人が勝手に思っているだけですので、大した論拠もありません。上記はリンのことについてだけ述べていますが、CreやBUNの値も考慮しながらご飯を切り替えていくのが良いかと思います。異常値になってからだと遅いことが多いので、正常値範囲内のうちに対策を取ることが大切だと考えています。

ただ、肉を与える与えないということより重要なことは、理想体重に対して適量を与えるということです。たんぱく質は必須ですが、たんぱく質は多すぎるとゴミになります。逆に少なくても痩せていき、元気もなくなります。

どちらにせよ末期になるとそもそもご飯を食べられないです。栄養バランス以前にまずは食べることが大切です。ここまでくると何を優先するかは人それぞれだと思います。少しでも延命したいのか、少しでも楽しく生きてほしいのか。誰にも答えは出せないと思いますが、あきらめたらそこで終わりなので、両立する道を探したいですね。